「築地本願寺の経営学」

2022年(令和4年)813() 午前11時 会場:弘宣寺 本堂

弘宣寺 住職 八村弘昭(やつむら ひろあき)



 弘宣寺の所属する浄土真宗本願寺派は京都の西本願寺が本部ですが、その本願寺派の子会社と言うべき存在が東京の築地にある「築地本願寺」です。ここのトップに、慶應大学を卒業して三和銀行(現三菱UFJ銀行)で働いて、その後にコンサルティング会社の経営をしながら本願寺派の僧侶の資格を得た安永雄彦(やすなが ゆうひこ)さんがつきました。この安永さんが築地本願寺を大改革するお話です。

1、新たな時代に変わらない価値をつくる

 今、お寺はとても危機的な状況にあります。人口は減り続け、現在は約1億2000万人ですが、2050年には9515万人、2100年には4771万人と予想されています。高齢化率も進んで、2020年で女性の二人に一人が50代以上になりました。お葬式や法事も「家」がある時代のものです。2015年の国勢調査によれば、50才の時点で結婚歴のない人は男性の23.4%、女性の14.1%です。家が成り立たなくなれば、檀家制度も崩壊します。2016年の調査で「あなたは特定のお寺の檀家ですか?」と問われた時、「檀家である」と答えた人が29%に対して、「檀家ではない」と答えた人は54%でした(「わからない」が17%)。お葬式も2014年には「家族葬」が30%、「一般葬」は北海道では50%を切っています。日本のお寺の数は7万7000と言われていますが、今後20年で30%は消滅するとも言われています。浄土真宗本願寺派が2015年に行った調査によれば、年収1000万円を超えるお寺はおよそ20%、45%のお寺は年収300万円未満です。過疎地では年収50万円を切るお寺も出てきました。都会のお寺は大丈夫かというと、2012年時点で築地本願寺は毎年億単位の赤字が出ていました。浄土真宗本願寺派だけでも半分のお寺はきちんと財務諸表をつくれば債務超過で破綻していることが予想できます。築地本願寺は、地下鉄の築地駅に直結していて、銀座からも歩いて10分という抜群の場所です。しかし参拝者は減少し続けています。

 現在の築地本願寺の本堂は昭和9年(1934年)に再建されました。土足で入れるようにして、椅子席を設けたのは当時のお寺にしてはとても斬新でした。しかし時代を経るにしたがって、斬新性がなくなり、時代や環境の変化に応じて変わろうとしない保守的な体質に変わってきてしまいました。「築地本願寺のやり方は40年遅れています。1975年の高度経済成長期で止まっている。『大丈夫、時が経てば成長し、業績もきっと良くなる』と根拠なく楽観視している。でも、実質的に成長していません。体ばかりが大きくなって効率が悪いのに、IT導入をはじめとする合理化に対してはとても消極的です。外から見たら時代遅れなのに、中にいる皆さんは遅れていると全く自覚していない。このギャップは大問題です」と安永さんはハッキリと言いました。進化論のダーウィンは「強いものが生き残るのではなく、環境変化に対応したものが生き残る」と言いました。変わりゆく時代にこそ、自らが変化することで、「変わらない価値」をつくる。生き残りをかけて、内側から、外側から、築地本願寺を変えていく。それが安永さんに課された役割でした。

2、開かれたお寺の「顧客創造」

 築地本願寺では、2015年から10年間でさまざまな取り組みを行うにあたり、予算は40億円を用意しました。内訳は、本願寺派から20億円、築地本願寺の積立金から20億円です。赤字経営の中、これだけの大きな投資をするので確実に結果を出さねばなりません。事業計画の第1期は、築地本願寺がもっと開かれたお寺になることを目指しました。具体的には5つの改革案をつくりました。1、インフォメーションセンター。2、築地本願寺合同墓。3、会員制度「築地本願寺倶楽部」。4、気軽に電話相談、法要予約や合同墓説明会資料請求・予約ができる「築地本願寺コンタクトセンター」。5、サテライトテンプル「築地本願寺GINZAサロン」です。インフォメーションセンターは、境内に新たな複合施設を作ろうというもの。総合案内と総合相談窓口を設け、カフェやオフィシャルショップ、ブックセンターもある。そこでまずは境内改修から始めました。築地本願寺は古代インド様式で、今でもとても斬新なデザインです。しかしたくさんの木が邪魔で、その斬新な建物が外から見えませんでした。そこでたくさんの木を切って、建物が外から見えるようにしました。建築会社などに直接働きかける前に、デザイナーを探すことにしました。「木は造園会社に伐ってもらおう」、「インフォメーションセンターは設計士に頼めばいい」、こんな具合に個別にやっていたら、できあがった時のイメージはばらばらになってしまう。総合的にすべてを見渡す人がいて、その指揮官のもとで「新たな築地本願寺のイメージ」をつくり上げなければ、築地本願寺の再構築は成功しないと思ったからです。デザイナーによって、築地本願寺のイメージカラーは「鉄紺」という濃い紺色に統一しました。ロゴマークもつくりました。そして木が無くなり、開けた境内は明るい空間に生まれ変わりました。完成したインフォメーションセンターと合同墓も、現代美術館のようになりました。入りやすい場所になった築地本願寺は、外国人観光客やカメラを持った女子など、今まで見かけなかった姿が見られるようになりました。インフォメーションセンターには、カフェをつくりました。そこで「18品の朝ごはん」を出しました。18というのは、阿弥陀仏の願いの中で一番大事な第18番目の願いにかけています。値段は1800円になりましたが、「写真映えする」という理由で女子大生から年配の女性まで行列するほどの大人気になりました。総合相談窓口には係員だけでなく僧侶も常駐しています。「自分が死んだら誰がお墓の面倒を見てくれるのか」、「お葬式はどうしよう」、「いなかのお寺にあるお墓を東京に移したいが?」といった都会に住む誰もが抱える悩みを、気軽に相談できる拠点になっています。

 二つ目の案の合同墓です。築地本願寺は便利な場所にあるので、銀座での買い物帰りにも立ち寄れます。多くの人が求めている「これからのお墓」が提案できる。そう考えて合同墓をつくりました。いわばお墓のマンションで、誰もが気軽に訪れることができる、シンプルなお墓です。廊下には個人名が刻まれます。浄土真宗本願寺派の教えや儀式を尊重することに同意してもらいますが、これまでの宗派を問わず誰でも申し込めるようにしました。値段は30万円以上にしました。その結果、契約数が1万人を超えました。テレビなどにも取り上げられたので、予約が殺到しています。

 三つ目の案が「築地本願寺倶楽部」です。合同墓に入る人には、倶楽部の会員になってもらいました。入会金や年会費がないゆるやかな会で、インターネットからでもすぐに申し込めます。これからのお寺は「心のサポート」、「生きがいサポート」、「終活サポート」の三つを合わせた「人生サポート」が必要だと思いました。心のサポートとしては、僧侶が仏教の話をする法話や、仏事やお墓のことだけでなくさまざまな日常の悩みを僧侶が個別に聞く相談会を用意しました。生きがいサポートでは、銀座2丁目に「築地本願寺GINZAサロン」を設け、仏教についてだけでなく、歴史、ヨガ、生け花、著名人のトークショーなどが1回1000円という安い参加費で楽しめるものをつくりました。「終活サポート」は、葬儀や合同墓だけでなく、生前整理、遺言・相続、法律相談、ライフプラン、自分史の作成サポート、メディカルサービスまで幅広く用意しています。僧侶だけでなく、外部の専門家とも連携するシステムをつくりました。「築地本願寺に行けば、エンディング・ステージに関係するたいていの悩みが解決する」と思ってもらえれば、ご縁は深くなっていくはずです。この結果、築地本願寺倶楽部は会員が2万5000人になりました。6対4で女性が多く、年齢層は30代から70代と幅広いです。

 四つ目の案が「築地本願寺コンタクトセンター」です。合同葬でも仏事でも、「ちょっと話を聞きたいな」という時、電話オペレーターが対応する年配の人でも利用しやすいものです。一ヶ月に1800件の相談が来ます。

 五つ目の案が「築地GINZAサロン」です。2016年に銀座2丁目にオープンしました。ロゴや内装デザインをデザイナーに依頼して、銀座らしいおしゃれなものになりました。内容は、「こころ・仏教・教養・体験・終活」で、カルチャーセンターのようなものです。最初はみんなに知ってもらうために無料にしたところ、申し込みが殺到しました。そこで1講座1000円にしました。利用者は6000人になりました。ここでは、仏事やお墓のこと、生活の不安や人間関係の悩みに個別に相談できる、僧侶による相談会もしています。時間は一人60分で、利用者の多くは人間関係のかなり深刻な悩みでした。僧侶の役割は、法要や葬儀の時に心に染みる話をし感動してもらうことも大切ですが、日常的に人々の心を落ち着かせることももっと大事な仕事だと安永さんは思っています。2019年から武蔵野大学の精神科の医者と連携して、医学的にもサポートできるようになりました。また東京海上日動と契約して、「夜中にちょっと具合が悪くなった」というような相談にも対応できるメディカルサービスも始めました。「自分史」を書くために朝日新聞社と協力もしています。朝日新聞の元記者に自分の一生の歴史を話して、代わりに書いてもらえます。

3、お寺は「人生のコンシェルジュ」

 築地本願寺では、2019年に歌手のAI(アイ)のゴスペルコンサートをしました。毎月一回、最終金曜日にはパイプオルガンなどの「ランチタイムコンサート」も開いています。遠方からも、繰り返し来てくれる人がいます。その他に、ひろさちやや五木寛之の仏教文化講座もしていて、800人ぐらい集まりました。その時に安永さんは「何人のデータが集まった?」と職員に聞きました。職員はきょとんとしていましたが、民間の会社では、どのエリアの、どの年代の、どんな属性の人が集まったのかの情報を取るのは常識です。これだけではなく、築地本願寺でお葬式や法要をしてくれた人たちの情報も、きちんと取っていませんでした。今後につなげていく、しっかりとしたシステムを作りました。

 若い人に結婚のサポートをしようと、結婚相談所もオープンしました。さまざまなやり方で、ご縁をつくっていっています。

 今までの築地本願寺は、もともと持っているもの、すぐに提供できるもの、つくるのが得意で提供したいものを出していました。これを、人々の要望を調べて、人々が求めているかたちで出すように変えました。これを具体的にしたのが、合同墓です。

 オンライン法要もしています。本堂で法事をして、その様子をインターネットで中継するというものです。始めたら、申し込みが立て続けにありました。「お布施額は3万円から」とホームページに書きました。「インターネットで申し込むには、金額表示は絶対に必要」と思ったからです。せっかくなので、葬儀や法要の目安の金額を築地本願寺の広報誌に載せるようにしました。

4、目標を共有できる仕組みをつくる

 改革者に期待される一番の仕事は、「今のままでいい」、「今までのやり方がいい」という内部の反対を押し切って、説得して何がなんでも改革をやり抜くことです。

 築地本願寺では単式簿記だったのを、複式簿記に変えました。職員には簿記学校に通ってもらい、簿記3級、簿記2級を取ってもらいました。

 築地本願寺の職員は、およそ100人。助っ人の契約社員などが20人で、残りは僧侶です。この僧侶の95%はお寺の息子や娘で「将来は自分のお寺に帰って住職を継ぎます」という人が半分以上います。お寺という特殊な環境に生まれ育ち、仏教系大学に学び、僧侶の資格を取ってお寺に勤めた若者たちですから、医者一家や教師一家と同じで、お寺の外の世界をあまり知りません。

 どんなに優れたシステムも、働く人たちの意識を変えながら導入しないと「こんなことをやらされて、なんの意味があるのか」となります。そこで人材育成の一環として2018年から目標管理制度を導入しました。

 「お寺はビジネスではない、伝統的なやり方がある」という姿勢で変化を望まない人がいまだにいます。

 外国人僧侶も入れました。中国系のシンガポール人です。中国語と英語と日本語が流暢に話せます。

5、最後に

 安永さんは「世の中は絶えず変化しているので、自己改革をし続けないと生き残れない」と言っています。これはビジネスの現場で身につけたものだと思います。仏教をつくったお釈迦さまも「すべてのものは絶えず移り変わっていて、それは誰にも止められないから、その変化に合わせて自分で自分を変え続ければ苦しみは少ない」と言っています。「ビジネスの現場」と「仏教」というまったく違う分野の二人が同じことを言っています。なのでこれは真実だと思います。安永さんが築地本願寺を改革し続けるのは、仏教的にとても正しい。伝統があるから変化を嫌がるのではなく、自己改革し続けることが本当の仏教の伝統だと思います。

 弘宣寺を見てみるとどうなのか。まだお寺ができてから100年未満ですが、古いところがあります。これは変え続けなければならない。しかし同時に、時代に合ったやり方もやっています。前住職のしている、病院などの老人施設に訪れる「ビハーラ」、電話で悩み事を聞く「相談電話」、車座になって悩みをみんなで話し合う「駆け込み寺」。どれも今の時代に合った、人々の悩みや苦しみを減らすための方法です。築地本願寺を見習いながら、時代に合わない部分はドンドン変えていき、時代に合う部分は長く続けるようにする。そういう気持ちで弘宣寺をやっていきたいと思います。



以下の本を参考にしました。

・「築地本願寺の経営学」(安永雄彦。東洋経済。1600円)



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