「日本の仏教」

2019年(平成31年)321() 午前11時 会場:弘宣寺 本堂

弘宣寺 若 八村弘昭(やつむら ひろあき)

 

 日本に仏教が伝わったのは、百済(朝鮮)の王が仏像や仏典などを日本に贈ったのが始まりであるとされます。西暦538年説と552年説が有力です。仏教は日本の風土に適応し、インド・中国・チベット・朝鮮半島・東南アジアの仏教とも違う特色をもった日本仏教が生まれました。その特色の一つに先祖供養が挙げられます。特に、日本では個人の遺骨が大事にされます。

 

飛鳥・白鳳・天平時代の仏教

 

 この時代の仏教は、政治をする人により国家体制確立のための精神的支柱として利用されました。東大寺と国分寺がそうです。東大寺を総国分寺と位置づけ、僧侶を各地の国分寺に派遣しました。これが中央集権体制確立の助けとなったのです。地方においては僧侶の派遣により都の新しい文化が紹介されるメリットがあり、朝廷においては国分寺が地方情勢を知る拠点ともなりました。

 

平安時代の仏教

 

 それまで学問仏教と呼ばれた奈良仏教とは異なる仏教が最澄(さいちょう)と空海(くうかい)によって日本にもたらされました。最澄は唐(中国)に行く前からすでに法華経研究の第一人者であり、遣唐使として中国に渡りました。天台山で中国天台教学、菩薩戒を授かり、帰りには密教、禅をも学び帰国しました。帰国後に、天台・密教・禅・戒律の4つの教えを中心とする日本天台宗を開きました。

 

 空海は、最澄と同じ遣唐使の一人として中国に渡りますが、その他大勢の一人でした。長安で密教を学び帰国します。帰国後、教えられた密教を真言密教として体系づけ、真言宗を開きました。

 

 日本では、悟りも修行も無くなる末法の世が1052年からはじまるとされたことから社会に末法思想が浸透していきました。それにともない、浄土教が盛んになりました。源信が「往生要集」を書き、天台浄土教が盛んに行われました。

 

 この時代の特色として神仏習合思想が挙げられます。神仏習合とは、古くからの神への信仰が新たに伝わった仏教と接触して生まれた思想・儀礼・習慣などが一つになる現象で、仏・菩薩が仮の姿をとって出現したのが神であるとする本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)がだされるなど幅ひろく進みました。

 

鎌倉・室町時代の仏教

 

 鎌倉時代に入ると、現代の日本仏教各宗派を開いた僧侶がでて活躍しました。法然(ほうねん)は念仏こそが阿弥陀仏が選択した往生の行いであることを主張して浄土宗を起こし、親鸞(しんらん)は阿弥陀仏の絶対他力を説き浄土真宗(一向宗)を起こしました。禅宗系は栄西(えいさい)が宋(中国)から臨済宗を、道元(どうげん)が曹洞宗を伝えました。また日蓮(にちれん)は法華経信仰を純化して日蓮宗(法華宗)を開きました。

 

戦国時代の仏教

 

 戦国時代になると天下統一を目指す武士勢力と荘園などを基盤として力をもった仏教勢力との間で衝突がおこります。強力な僧兵(僧侶の兵)を持つ寺院は争いに加わり、勢力争いの渦に巻き込まれていきました。

 

 一向一揆、法華一揆などの宗教一揆、また、比叡山・根来寺の焼き討ちが行われました。寺院も天下統一を目指す勢力に従わざるを得ない情勢となったのです。

 

江戸時代の仏教

 

 江戸時代の宗教政策の特色は、キリスト教禁止と本末制度・寺檀制度(檀家制度)の確立です。本格的なキリスト教禁止は江戸幕府による1612年と翌1613年の禁止令です。これにより信者もキリスト教を捨てるか国外退去かを迫られました。仏教界に対しては本山と末寺の本末制度を確立し、各本山を通じてピラミッド型に全国すべての寺院を統制しました。全国の寺院はそれぞれの宗派ごとにいくつかの本山の下に統合されました。また、キリスト教禁止の徹底のためにも、すべての民衆はいずれかの寺院に所属しなければなりませんでした。これが寺檀制度です。寺院では寺請証文を発行し、これは身分証明書として機能しました。また、宗旨人別帳(しゅうしにんべつちょう)を作成しましたが、これは現在の戸籍簿に相当するものです。このように、寺院が行政機能の一部を担うことで仏教が幕府の管理下に置かれたとみることができます。寺檀制度のもと仏教葬儀が民衆レベルにおいてもなされ、寺院と檀家という関係が定着したことは日本仏教にとって重要な意義をもつものといえます。

 

近世・近代の仏教

 

 明治維新が起こると維新政府は天皇の権威を高める等の理由から神仏分離令を出しました。これによって、多くの寺院が被害を被りました。特に檀家をもたない本山クラスの寺院は領地を没収されるなど経済的に大きな被害にあいました。神仏分離が曲げてとらえられた廃仏毀釈により寺院の建物が壊され、寺院荘厳具が仏教芸術品として売却されてしまったという例はたくさんありました。

 

 

宗派の紹介

 

 現在の日本には、大きく分けて法相宗(ほっそうしゅう)、華厳宗(けごんしゅう)、律宗(りっしゅう)、天台宗(てんだいしゅう)、真言宗(しんごんしゅう)、融通念仏宗(ゆうずうねんぶつしゅう)、浄土宗(じょうどしゅう)、浄土真宗(じょうどしんしゅう)、時宗(じしゅう)、臨済宗(りんざいしゅう)、曹洞宗(そうとうしゅう)、日蓮宗(にちれんしゅう)、黄檗宗(おうばくしゅう)の13宗があります。この中で大きな7宗を紹介します。寺院数、信者数は2010年(平成22年)のものです。

 

1、天台宗

 

開いた僧侶:最澄。開いた年:806年。教えの特徴:天台教学に密教(秘密の仏教)、禅、戒律(僧侶のルール)を融合させた総合仏教で、法華経の思想を中心とする。本山:比叡山延暦寺など。信仰する仏:釈迦如来。経典:法華経。系列大学:大正大学、寺院数:4054。信者数:320万人。

 

 最澄は14才で僧侶になり、19才で比叡山に入って修行をし、中国天台宗の経典を学んでいたけれどより深く学ぶために唐(中国)へ行くことにし、804年に遣唐使の一員になりました。唐に着くと天台宗を学び、菩薩戒という戒律を授かり、禅も学び、密教も学びました。1年後に日本に帰り、806年に天台宗を開きました。

 

 法華経を経典として「人はみな誰もが平等に成仏できる」という天台の教えの中に、密教も戒律も禅も含まれているとしました。後に浄土教も教えるようになり比叡山は仏教の総合大学のようになりました。鎌倉時代に宗派を開いた僧侶は比叡山で学びました。

 

2、真言宗

 

開いた僧侶:空海。開いた年:822年。教えの特徴:大日如来と一体化するための修行を行い、この身このままでの成仏を目的とする。本山:高野山金剛峰寺、醍醐寺、東寺、泉涌寺など。信仰する仏:大日如来。経典:大日経、金剛頂経。系列大学:高野山大学、大正大学。寺院数:12105。信者数:897万人。

 

 空海は24才で僧侶になり、密教に深い関心を寄せて、31才の時に遣唐使の一員になり唐に行き、密教のすべてを学び秘法を授けられました。2年後に日本に帰り、816年に朝廷から高野山をもらい、823年には東寺をもらって密教の修行の場としました。822年に真言宗を開きました。

 

 密教とは「奥深い秘密の仏教」という意味で、大日如来が真理そのものであり、宇宙の中心であるとします。現世をそのまま仏の世界として受け入れるという考え方です。この教えをわかりやすくするために作られたのが曼荼羅(まんだら)で、悟りの境地を表したものです。具体的な行動は、手に印を結び、口に真言を唱え、心をひとつに集中することで心が浄化され仏になれるとします。

 

3、浄土宗

 

開いた僧侶:法然。開いた年:1175年。教えの特徴:「南無阿弥陀仏」という念仏をひたすら称えれば、誰でも極楽往生できると説く。本山:知恩院など。信仰する仏:阿弥陀如来。経典:無量寿経、観無量寿経、阿弥陀経。系列大学:仏教大学、大正大学。寺院数:16012。信者数:625万人。

 

 法然は、9才で父親を殺され、13才で比叡山に登って僧侶になりました。43才の時に阿弥陀仏の教えに出会い、ただ念仏することを決めました。比叡山を下りて念仏を広めたくさんの信者を集め、浄土宗を開きました。信者が増えることに危機感を持った奈良の寺院や比叡山が法然を弾圧し、75才の時に讃岐(香川県)に島流しに遭いました。その時に弟子の親鸞も越後(新潟県)に流されました。4年後に許されて京都に帰り、翌年に亡くなりました。

 

 修行を否定し、「南無阿弥陀仏」と念仏を称えるだけで救われるという教えは当時は画期的でした。救われたいと思う真剣な気持ちがあれば、たった一回の念仏でも救われると教えました。法然の教えは、一部の人しかできない難しい修行では無く、誰でもできるやさしい教えでした。

 

4、浄土真宗

 

開いた僧侶:親鸞。開いた年:1224年。教えの特徴:自力での成仏を否定し、阿弥陀如来の本願を信じることで救われると説く。本山:西本願寺、東本願寺など。信仰する仏:阿弥陀如来。経典:無量寿経、観無量寿経、阿弥陀経。系列大学:龍谷大学、大谷大学など。寺院数:20550。信者数:1338万人。

 

 弘宣寺の宗です。

 

 親鸞は、父を4才で母を8才で亡くし、9才で僧侶になり比叡山で学びました。しかし20年間修行しても悩みは無くならず、29才の時に比叡山を下りて、聖徳太子の夢を見てそれにしたがい、浄土宗を開いた法然の弟子になりました。34才の時に法然が島流しに遭うと、親鸞も越後に流されました。その時に僧侶の資格も奪われました。そして日本の僧侶で初めて堂々と結婚しました。4年後に許されましたが京都に戻らず関東で教えを広めました。62才で京都へ戻り、90才で亡くなりました。

 

 法然の浄土宗は念仏を称えると救われると教えますが、親鸞は阿弥陀仏の力を信じるだけで救われると教えます。人は誰でもこの世に生まれた時から阿弥陀仏によって極楽往生が約束されている。それを他力本願と言います。自分でも気づかないうちに阿弥陀仏の力によって信じる心さえも与えられていると教えます。

 

5、臨済宗

 

開いた僧侶:栄西。開いた年:1191年。教えの特徴:坐禅をしつつ、師から出される公案を解くことで、悟りへと近づいていく。本山:建仁寺、妙心寺、天龍寺、南禅寺、東福寺、大徳寺など。信仰する仏:釈迦如来。経典:無し。系列大学:花園大学。寺院数:5700。信者数:116万人。

 

 坐禅をするので禅宗と言います。臨済宗は禅宗の一つです。禅宗は「悟りは言葉ではあらわせない」として、経典はありません。

 

 栄西は、14才で比叡山に登り密教を学びました。28才の時に宋(中国)に行き天台宗で密教を学び、47才の時に再び宋に行き臨済宗の禅を5年間学びました。帰国後、九州で禅寺を次々に開いて禅を広めましたが、比叡山などから圧力をかけられて京都には入れなくなったので鎌倉に行き、将軍や武士に禅を広め、そのおかげで京都に戻れるようになり、天台と真言と禅を学ぶ建仁寺を開きました。栄西の禅は禅だけをするのでは無く、天台教学や密教と一緒に学ぶ禅でした。

 

 坐禅はお釈迦さまもしました。禅宗では、坐禅はお釈迦さまの悟りを直接体験することだと教えます。臨済宗では坐禅をする時に公案(こうあん)という問題を師匠から弟子へ与え、弟子は坐禅をしながら答えを考え、それを師匠に伝え、答えに達していないと師匠が思えばやり直しになり、また坐禅をしながら考えます。公案は頭で理解するものでは無く、体で全体で体得していくものです。その人の直接体験から出た答えかどうかが大切です。

 

6、曹洞宗

 

開いた僧侶:道元。開いた年:1227年。教えの特徴:何も目的を持たずにひたすら坐禅を行うことによってお釈迦さまの悟りの境地へと至る。本山:永平寺、総持寺。信仰する仏:釈迦如来。経典:無し。系列大学:駒澤大学。寺院数:14562。信者数:157万人。

 

 禅宗の一つです。

 

 道元は、13才の時に比叡山に登って僧侶になりました。しかし疑問が無くならないので18才の時に比叡山を降りて建仁寺で臨済宗の禅を学ぶが解決しないので、24才の時に宋に行きました。そこで曹洞宗の禅を学び、ある日に隣で坐禅をしていた僧侶が居眠りをしていたら「坐禅は一切の執着を捨ててするものだ」と師匠に叱られた時、道元はあらゆる煩悩や執着が抜け落ちる悟りを体験しました。2年後に帰国して建仁寺などで教えを説きました。信者が増えてくると比叡山などから圧力がかかり、逃れるために越前(福井県)に移り、そこで永平寺を建てました。

 

 曹洞宗の禅は、仏になるための修行では無く、仏そのものである。何のために坐禅をするのかという疑問自体がとらわれで、ただ坐禅をすることがすべてだと考えます。「経典も、念仏も、仏像もいらない。ひたすら坐禅することでのみ仏教を学びとれる」と教えます。そして、起床、食事、入浴など日常生活のすべてが修行だと考えます。

 

7、日蓮宗

 

開いた僧侶:日蓮。開いた年:1253年。教えの特徴:法華経こそが真理であり、「南無妙法蓮華経」の題目を称えることによって誰でも救われると説く。本山:久遠寺など。信仰する仏:釈迦如来。経典:法華経。系列大学:大正大学。寺院数:6575。信者数:549万人。

 

 日蓮は、16才で僧侶になり、22才から10年間、比叡山や高野山などで仏教を学びました。そして法華経という経典のみを純粋に信仰する考え方になりました。32才の時に「南無妙法蓮華経」と唱えました。これが日蓮宗の始まりです。日蓮は、国に災いが起こるのは法華経以外を信仰するからだと思い、他の宗派もすべて法華経に従うべきだと言い、浄土宗や浄土真宗や禅宗や真言宗を激しく批判しました。そのために怒りを買い、2回の島流しに遭い、殺されかけたことも2度あります。しかしそれに屈せずに、61才で病気で亡くなるまで法華経中心に生きました。

 

 日蓮宗では法華経だけが正しい経典で「南無妙法蓮華経」を唱えるだけで救われると教えます。南無とは「まかせる」ことで、妙法蓮華経とは法華経の正式な名前です。法華経には、お釈迦さまは死んだけれどそれは仮の姿で実は永遠に生き続けていると書いています。その永遠に生き続けるお釈迦さまがあらゆる人々を救うと書いてあります。

以下の本を参考にしました。

 

・「お坊さんも学ぶ仏教学の基礎 2 中国・日本編」(大正大学仏教学科編。大正大学出版会。1500円)

 

・「日本の仏教」(渡辺照宏。岩波新書。820円)

 

・「日本仏教史 思想史としてのアプローチ」(末木文美士。新潮文庫。670円)

 

・「知っておきたい 日本の仏教 日本仏教13宗をかんたん解説」(枻出版社。552円)

 

・「はっきりわかる! 日本の仏教宗派」(島田裕巳監修。成美堂出版。1400円)

 

・「図解 仏教宗派がよくわかる本」(永田美穂監修。PHP1500円)

 

・「図解 世界5大宗教全史」(中村圭志。ディスカバー・トゥエンティワン。1200円)

 

・「岩波仏教辞典 第二版」(中村元、福永光司、田村芳朗、今野達、末木文美士編集。7000円)


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